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2009年4月

2009年4月30日 (木)

山スキー携行ツール for “Dynafit/TLT”

便利度 :★★★★★
工作度 :☆☆☆☆☆
推薦度 :★★★★★
危険度 :☆☆☆☆☆


私は半日の山スキー(ボード)ツアーであっても工具と簡単な修理用のパーツを組み合わせたツールキットを持参するようにしています。
ボードでもスキーでも、ビンディングの不調でせっかくのツアーが楽しめなかったり、ドライバー1本ビス1個が無かったためにツアーの中断を強いられる事だって十分起こり得るからです。

Tool_pauch
(一式をポーチに入れておくと便利)

そこで、自分の道具に合わせてツールやパーツを選んで小さなポーチにまとめておくと便利なのですが、今回は Dynafit TLT ビンディング用に私が携行するツールセットをご紹介したいと思います。

★ドライバービット類
①PZ3 ビット (ヒールの前後位置調節もこのサイズ)
②PZ2 ビット(ブーツ側のヒール金具のビスはこのサイズ)
③T10 ビット(へックスローブ・ビット、通常使わないがヒールピースのトップカバー用)
④マイナスビット(ヒールの上方向解放値調節用)
⑤通常のフィリップス♯2・♯3ビット(TLT用ではないが汎用として)

Sp_bit_t10
(自作スペシャルPZビット㊤、T10ビット㊦)

★その他のツール
⑥ドライバーハンドル(①~④のビットに使用)
⑦自作L型レンチ(ヒールの左右方向解放値調節用)
TLTのヒールピース後端の解放値調節用スプリングキャップは普通のマイナスドライバーやコインでは回しにくいので、2017アルミの板を画像のような形状に曲げて両端に若干のRをつけてある。状況に応じて両側で使い分けられ、便利なのでTLT使用者は是非自作を!
⑧付属のシム (ヒールピースのクリアランスゲージ)
⑨小型プライヤー
⑩ブーツ調節専用ツール(ブーツに付属のもの)

Sim_etc
(TLT用のシムと、2000系アルミ製自作レンチ、ブーツ調節用ツール)

★補修小物(シール補修にも使用)
⑨ダクトテープ(自分で小分けロールにして)
⑩タイラップ (小~大まで数個)
⑪針金
⑫その他(ボードの場合は補修用のビス・ナット類も・・・)

Wax_pauch

★WAX類
その他、上の画像のように滑走用ワックスや簡単な液体ワックス、コルク又はクロス、スキン用のワックス、グルー補修用パッチなど一式を入れたポーチも作ってツアーに持参すると便利です。


(その他)
特に近年の春スキーは、暖冬・黄砂と、条件の悪い場面が多いようですが、こんな残雪期の汚れ雪や、ジャブジャブ雪用には生塗りのできる“ドミネーターのButter”(自信を持って推薦!)や、本来アイロン用ですが“ガリウムのAX F40”(こちらも自信を持って推薦!)、などの春専用ワックスの小片、また黄砂用に小型のナイロンやブラスブラシ、ファイバーマット等も状況にあわせて一纏めにして持参すればノッキングスノー対策も万全でしょう。

Waxa
(AX F40/春にはこんな温度帯のWAXを!)

(使用したことは無いのですが“チーム・レスキューの「雪虎」”という黄砂専用のワックスにも非常に興味があります。高価ですがこれで「妖怪“板つかみ”?」を退治できるのでしたらその価値はあると思うのですが・・・。誰か使った方いらっしゃいますか?)

あれもこれもと欲張ると重くなるし嵩張るのでザックに入れるかどうか悩むところですが、せっかくの一本を快適に滑れるかどうかが左右されますので、後悔しないよう慎重に判断しましょう。(多くの場合、持って行かなかった時に限ってそれが必要なシチュエーションに遭遇するという皮肉な結果になるものです・・・)

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2009年4月22日 (水)

お気に入りアイゼンを小改造

便利度 :★★★★★
工作度 :★☆☆☆☆
推薦度 :★★★★★
危険度 :☆☆☆☆☆

Pzb1
(今回ご紹介する“PETZL・バサック/改”)


私は極端ではないですが軽量化マニアみたいなところがあります。
ですから、アイゼンについても軽量化のため、雪上歩行が主となる山行には“MIZOのチタンアイゼン”か“ウクライナ製のチタンアイゼン”(SALEWAのコピー?スキー兼用靴用)を使用し、昨シーズンはスキーツアー用として更に軽量な“BDのアルミ合金製アイゼン”をただ軽いという理由だけで購入してしまいました。

しかしその一方、私は、岩稜の登高や岩場の通過が予想されるルートでは、多少重くてもなるべく従来型のクロモリ鋼製のアイゼンを使用することにしています
アルミ合金製のアイゼンも、岩場で使用できないことはないのでしょうが、本来アルミアイゼンはヨーロッパで“氷河歩き用”として売られている事からも判るように、ハードに使用した場合は強度的にも折損の可能性も大きいと思われます。
私がかつてKOHLAのアルミアイゼンを使用した実感でも、雪は付着しやすいし、すぐツアッケ(爪)の先がまん丸になりますし、直感的に強度不足だと感じハッキリ言ってあまり良い印象はありません。

シビアな場面でのアイゼンの故障は、事故に直結してしまうほど深刻な状況を招きます。(経験者は語る・・・です!)
最近は「軽ければ良い」的な風潮もありますが、アイゼンのように過酷な負荷が予想される道具については、多少重くても丈夫な道具を選んで破損のリスクを減少させるという慎重さも必要でしょう。

さて、数多いクロモリ鋼製のアイゼンの中で、私が一般の登山者や雪山入門者に一番お勧めしたいと考えているのは、現在私も使用中のPETZL・シャルレの“バサック”というアイゼンです。

Pzfb
(画像は改造後のものです)

また、同社には基本設計を同じくする、よりスパルタンな“サルケン”というモデルもあります。
私もエキスパートっぽい感じの“サルケン”と、地味な縦走用といった感じの“バサック”とどちらにしようか店頭でずいぶん悩びました。
しかし、見栄を張る歳でもないし、“バサック”のほうが“サルケン”よりフロントポイントとセカンドポイントの距離が僅か数ミリですが離れている様な感じなので、地味ですが“バサック”買うことにしました。

Pzfs
(本当は、以前のシャルレの“スーパーモンブラン”や“スーパー12”のようにセカンドポイントが真下に向いているのが現在の私の好みなのです・・・

私も昔は、セカンドポイントが前に出ているシモンの“マカルー”をずっと使用していたことがあり、それでも当時岩場でさして苦労した記憶もありませんので、現役バリバリのアルパインクライマーや脚力のある若い方でしたら、氷の急斜面で安定するようにセカンドポイントも前方に突き出しているタイプのアイゼンを選んだ方が応用が利いて良いかと思います。
しかし、体力と気力共にイマイチな現在の私の場合は、こんなタイプのアイゼンだとホールドに立ち上がるのが不安定になってしまうのです。
軟弱かもしれませんが、現在の私の場合、フロントポイントからセカンドポイントまでの距離が長いアイゼンでベッタリとフットホールドに乗らないと怖くて次の足が出せないんですね。(涙)
見栄を張って分不相応な道具を使い、落っこちてロクっても洒落になりませんから・・・。

また、何種類かのフイットシステムの選べる“バサック”の中でも、ブーツの爪先の形状に関わらずフィットさせ易い、フロントが樹脂製のストラップでヒールがレバー式のLLというタイプを選択しました。

実際に使用してみても、見た目も仕上げも工業製品としては最高ランクだと思いますし、調節も細かくできて非常に使いやすいし、最高に良い買い物をしたと思っています。

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(ジョイントの調節も独自の素晴らしい設計!)

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(新・旧のスノープレート↑/改良されて良くなったが、固定用のPZ1のビスは緩みやすい!)

しかし、“バサック”にも問題が無い訳ではありませんでした。
フロントの樹脂製のストラップがグリベルなんかの物より丈夫そうなのは良いですが、とても硬いのです。
履く前に反転させたり収納する時に内側に倒そうとしてもかなり反発力があり扱いにくいですし、このようにただでさえ硬いのに寒冷時にはさらに硬くなって、さらに扱いずらくなってしまうのです。
また、丈夫だと思っていたつま先のリングにはまっている樹脂部分が岩場で擦れて、数回の使用で簡単に磨耗してしまいまいました。(私の登り方が雑だというのも原因だとも思いますが・・・)

Pzf
(取り外した樹脂製のトーストラップ/丈夫だが硬くて扱いにくい)

磨り減ったとはいえまだまだ千切れてしまうようなことはないのでしょうが、何時もの「思い立った弾み!」で思い切って、この樹脂製のパーツを取り外してしまい、昔の所謂“固定バンド”式のものに交換する改造を行うことにしました。

画像でお判りのように、強度の確保を考えナイロンのベルトを三つ折にしてステンレス製のカシメでリングを固定しただけの、よくある簡単な構造です。

Pzb3  Pzb2

まあ、このナイロンテープ製のストラップは消耗品で、オリジナルの樹脂製ストラップよりは耐久性がないかもしれませんが、現場修理も容易ですし、柔軟で脱着や収納も楽になった感じです。

また、オリジナルのベルトに付いているバックルも緩みにくいのは良いのですが、手袋での取り外しには苦労しますし、装着時に締め付ける時も慣れないうちはしっかり締らない形状なのです。
そこで、このベルトも一般的なバックル(画像↓㊧)に交換してみました。

Pzrs
(㊨はオリジナルのバックル/慣れないと扱い難い)

実は、私も怪我をした関係で今シーズンは使用はしていないのですが、まぁ、少しは使いやすくなった感じがします。

【追記】最近山道具屋で新しいバサックを見たら、トーストラップの樹脂が柔らかいものに素材変更され、より扱いやすく改良されていたようです。

(余談ですが・・・)

「軽量化・考」

私もお恥しながら、年甲斐も無くウルトラライト・ブーム(?)の波に毒されているようです。
既に溢れんばかりの山道具に囲まれながら、「新製品・最軽量○○グラム!」などという広告を目にすると、やおら手持ちの道具をスケールに載せ、僅か20グラムほど重いという理由だけでそれまで使っていた道具に対する愛着は喪失し、新製品に対する浮気心がムクムクと起き上がり物欲に火が着いてしまう・・・・という、まったくアホな日常を繰り返している自分に反省しきりです。
普段は他人に「軽いばかりが能じゃない。軽い道具にはそれなりの理由があり、何かを犠牲にして軽くなっているんだ・・・」などと偉そうに講釈している私でもこの体たらくです。

こんな私のような症状にお心当たりの方も多いんではないでしょうか。
しかし、この症状がさらに進行し、ウルトラライト原理主義とでも言うべき信仰の道に入ってしまうとさあ大変!
今回話題にしたアイゼンにしてもそうですが、冬用のブーツにしてもテントにしても、軽さを用具選択の最優先順位にしてはいけないものまで、こんな視野狭窄の状態で選ぶようになってしまうことにもなりかねません。
こんな病状は早く治療しないと、安全登山という観点からも問題が生じないとも限りませんし、第一、極限の登山でもないのに、山での食事(お酒?)まで軽ければよいなんて考えるようになった日にゃ、自分の山登り自体が楽しくなくなっちゃうような気がします。

まあ、新年早々骨折して周囲の顰蹙をかった私が言うのも何なんですが・・・。
“山登り”なんて所詮は周囲に心配や迷惑をかけてしまう遊びなんですから、他人から見たら楽しくなさそうでも、本人が納得して「これが私のポリシーだ」とか「俺流の哲学だ」と言うんならそれはそれで良いんだと私も思います。
しかし・・・、絶対とはいえませんが、山の先人が多くの経験を積み上げる事で出来上がった“山の一般的常識”(?)から大きく外れた装備が原因で事故ったりしたのでは、そんな行為は「ポリシー」ならぬ単なる「自己拘泥」の結果であり、「哲学」どころか「無知」の産物だとの謗りを受けるかもしれませんから。

また軽量山道具オタクを自負する私の目から見ても、ウルトラライトBPに代表される、昨今の我が国の“野遊び”の新しい波の中で育ったハイカー(≒登山者)の一部には、“UL”だとか“軽量化”自体が目的化し、それが無思考で従うべき記号となっているのでは?・・・と思えてならない方もいるように感じます。
多分、雑誌や、真面目にULに向き合ってウェブ上でUL系のサイトやブログを立ち上げている国内外の方のサイトを見てULに関心を持ち、その外見の目新しさのみを見て、カッコイイ・新しいと感じ、なんとなくメーカーや山道具屋さんのカモにされてるって感じの方も多いんじゃあないでしょうか。(特にP社の信者の方に多いような気が・・・笑)

これまた、「本人が良けりゃあ良いんじゃない・・・」なんでしょうが、軽量化という同じ志向を持つ私が常に自分を省みていることは、本来の軽量化とは「手段」であって「目的」では無いと言う大前提を忘れてはいけないという事です。

まず言えることは、軽量化の基本は「何を持たないか」が基本だと思います。これは同時に「それを持つ事によって得られる快適さ(安全性)」を、自分はどこまで捨てられるかという判断力でもあり、そのためには学習や経験、あるいは鍛錬が必須だと思うのです。
例えば「2月のこの山だったら、半身用マットは当然としてスリーシーズンシュラフまで装備を絞っても、耐寒訓練をしとけば大丈夫だ」と自信を持って判断するのも軽量化の技術の一つですし、「この沢は長丁場で難しいから、入山祝の初日の晩以外は禁酒にしよう(笑)」という涙の決断力も同様です。
大昔ですが、冬の黒部の壁を登ったクライマーの『今回は軽量化のために“腕時計”を持参しなかったので正確な時刻は不明・・・』というような記録を読んで感心した記憶がありますが、手段としての軽量化とは、正にこのような事を言うんではないかと思うのです。


しかし、現代の一部のULブームの流れは、「荷を軽くするために、何を持たないか」ではなく、「軽い道具を、どれだけ数多く山に持っていけるか」といった感じや、さらには「どんな手段を使えば未輸入の最新の軽い道具が手に入るか」みたいな、物理的な豊かさを競い合うような展開を見せているかのように感じるのは私だけでしょうか。
『山具道楽者』の私としては、こんな“楽しいこと”を完全否定するつもりはありませんが、これでは二昔も前のバブル景気時の、物量投入大量消費型アメリカン・オートキャンプと、志向性を一にしているような気がします。
これまた、「本人が良けりゃあ良いんじゃない・・・」なんでしょうけど・・・、大量生産大量消費「それ行けドンドン!」の高度経済成長期当時と異なり、今の時代は“省エネ”“オルタナティブ”“エコロジー”“ローインパクト”がカッコイイ時代ですから・・・(笑)。


さて、我が国の“野遊び”と“道具”の関係ですが・・・。
これは、40年近く前でしょうか、従来型の”登山”とは一線を画す形で米国より輸入された、日本の“所謂的アウトドアブーム”が“Whole Earth Catalog”をバイブルとしていたことはその端的な例かもしれません。
しかしこの書物の発刊の精神と、その意図するところを本当に理解していた日本人は殆どいませんでした。いわゆるカタログブームというのでしょうか、当時のアウトドア志向の若者(俺か?)は、アウトドア先進国(?)の米国の道具に憧れ、カタログ本を眺めながら、あるいは麻布の“スポーツトレイン”のショーウインドゥに額を摺り寄せながら、物理的にも金額的にも入手困難な米国の道具に恋焦がれたのです。

人間は道具を使うから人間であって、また遊ぶから人間なんです。ですから“野遊び”とそのための“道具”は、牙も被毛も持たない裸の猿である我々にとっては切り離して考えられないのは当然のことです。
そして、私たちは豊かさや満足感を求める時も、まず良い“道具(モノ)”を沢山所有し消費しすることを望みます。借り物の米国的文化と米国的豊かさを志向してきた我が国にあってはこれも当然過ぎる成り行きです。

その後の経済成長と自分の成長の結果、少しばかり豊かになった私は、気候風土の違いなどお構い無しに、カタログの写真そのまんまに米国の道具を使いだしました。
米国のトレイルでは有効だけど、日本の山岳地帯では邪魔なだけのフレームザックを得意げに担いで、これぞバックパッキングだ、などと言いながら山を歩いていた私は、若かったんでしょうか、それとも馬鹿だったんでしょうか・・・、今考えれば赤面ものです。

また、山以外でも当時のアウトドア教の、教祖様であられた芦○氏や油○氏の生活に「私淑」と言ってよいほどに憧れ、休日にはVANのジャケットをCPOジャケットに着替え、フライロッドを携えて里川に繰り出したりしましたっけ。

しかし、その本場アメリカのバックパッキングだって、その起源は60年代の米国で、反戦や反管理社会や反消費社会といった一連の対抗文化として巻き起こった、所謂カウンターカルチャームーブメントの産物であるわけですが、そんなことも知らず、私なんかはむしろ豊かな米国への憧れみたいに感じて、上っ面だけ猿真似をしていたわけですから能天気の極みもいいところです。
しかも、今考えれば、地勢や風土そして気候、そして使用する人間の体格さえ異なる外国の道具であることも理解せず「先進国アメリカで使用できる道具が日本で使えない訳がない・・・!」的な愚かさでしたから救いようがありませんでしたね。(そう言えば、高校生の時は訳も解らずヒッピーみたいな姿で闊歩してました。この当時の写真を他人に見られたら恥ずかしくて自殺しちゃうかもしれませんね・・・大笑)


そういえば“カウンターカルチャー”で思いつきましたが。
何故かアメリカ人は単純で大きなトレンドを起こすのも上手ですが、皆でそのトレンドを一方向に突走っていても、誰か必ず何処かで立ち止まって、大真面目に原点回帰を叫ぶ奴が出現する。
そうすると急に、あるまとまった一群はそいつに従って流れから抜け出し別方向に走り始める・・・こんな感じでしょうか。
米国は良い意味でも悪い意味でもカウンターカルチャー先進国なんです。

クライミングの世界でもこんなカウンターカルチャーはやはり米国で興りました。
わずか40年程前ですが、当時は道具を最大限に使い、自然を征服すべき敵にみなすようなクライミングが行われていたのです。
エアコンプレッサーを壁に持ち込み、パワーツールを使ってひたすらボルト穴をあけ続け、山頂まで直線のボルトラダーを築くような“ディレッテシマ”という下品な手法が最先端とされ、まさに鉄の時代の頂点を迎えていました。
文字どうり人工の道具を使うわけですから“アーティフィシャル・クライミング”(=人工登攀)と呼ばれていましたが、これはそんなスタイルの行き着く先だったわけです。現在のエイドクライミングとは一寸異なる概念ですね。

しかしその反動は、原点回帰という形で米国にフリークライミングというムーブメントを起こしたのです。「やはり人間、“モノ”より“心”だよね」って感じでしょうか、物に偏り過ぎていたことへの揺り戻しです。
そして、米国のクライマーたちは素早く、多少教条的ではありますが、道具に頼らず生身で対等に岩にかじり付くための技術と哲学の体系を完成させました。
堅苦しく排他的にも見えるかも知れませんが、このフリークライミングのあり方はある種の山登りの最も洗練され完成された形態の一つだと思います。(フアッション化と商業化に偏ったフリークライミングとは分けて考えたいですね)

また、スキーと言う“野遊び”についても同様です。
競技スポーツとして進化した結果、斜面を下るという機能に特化することで得た機能性と安全性とを引き換えに、歩くことと登ることというスキー本来の機能を犠牲にし、複雑で重く機械の様に味気なくなってしまったスキー用具と、その用具で滑降するためだけの技術を駆使する、アルペンスキーという商業化されたメガトレンドに対抗するカウンターカルチャーとして、やはり米国で蘇ったのがテレマークスキーです。
スキーの原点に立ち返り、軟らかい靴と細くて軽い板、そしてヒールフリーというシンプルな道具で、歩き・登り・そして滑るというスキーの原点回帰志向がモダン・テレマークというムーブメントの淵源だったわけです。
(まあ、フリークライミングと違いテレマークスキーは市場経済に近い位置にいたのが災いして、再び重く硬く味気ないが、しかし私たちの物欲を刺激するに十分な道具を駆使する楽しい?スポーツに変貌してしまいましたが・・・)

さて、「閑話休題」・・・で、本題に戻りますが・・・。

ウルトラライトというと、言葉自体もカッコイイですし、何か最新のテクノロジーを使った新素材を活用した最新の軽量な用具を駆使する先駆的なアウトドアスポーツみたいな印象をもたれる方も多いと思いますが・・・。
実は、このウルトラライト志向というのは、その逆で、上述と同様の流れの中で“原点回帰大好き人間”の総本山みたいな米国で発生したムーブメントの一つなんだと、考えると解りやすいと思います。

大量のモノを通して自然に関わるのではなく、なるべくシンプルに、そしてローインパクトに皮膚感覚で自然に接しようというわけですね。
そしてなるべく永く自然と接しよう、できるだけ遠くまで自分の足で歩いてみよう・・・しかも無補給・ノーデポで・・・。
・・・となれば、装備の軽量化は必須条件ですし、その軽量化の主題であり主要素であるべきなのは、やはり「何を持たないか」という判断力と「それを持つ事による快適さ(安全性)」を、自分はどこまで捨てるかという、経験に裏打ちされた意思なんじゃないか・・・つまり繰り返しになりますが、やはりULとは「手段」であって「目的」ではない、「ファッション(外見・流行)」ではなく「思想」であるべきだと思うんですが、いかがでしょうか?

そして、私たちがなるべくシンプルに、皮膚感覚で接しようとしている自然は日本の自然であって、けっして米国のそれではないのです。
当然米国の自然の中で育まれてきたULバックパッキングやULハイキングの用具や技術をそのままで我が国の気候風土の中でリプレイしたって、猿真似はやっぱり猿真似でしかありませんし、安全でも快適でも機能的でも、あるとは限らないのです。ハッキリしていることは山道具屋が儲かることぐらいでしょう。
また、我が国の自然は狭く、慢性的にオーバーユース状態であることを考えれば、広大な原野が広がる米国の流儀とは異なった倫理観と自己規範性が我々に求められるのは当然のことです。

35年以上も前のことですが、私が最先端を気取り、得意げに猿真似の米国風バックパッキングをしていた当時の自分の写真を見ると、懐かしさと同時に耳が赤くなるような恥ずかしさを感じてしまう・・・・、こんな事実を他山の石としてもらえば解ってもらえるでしょうか(笑)。
要は、借り物の文化は定着しないってことです。猿真似や教条主義に陥らず、自ら積極的に先人の智慧を学び、経験を積むことで、自分の合理的判断力を高め、そしてナチュラルでステディーな(借り物の言葉を使わないと「“自然”で“確固たる”」でしょうか?)自分なりのスタイルを確立できればそれが理想だってことですかね。

私も、米国発のULという思想とムーブメント自体には共感するところが多いし、これからの我が国の野遊びのあるべき姿の一つだとも確信しています。
しかし、これを米国サイズのまま身に纏うのではなく、日本の自然や気候風土そして文化という体型に合わせて仕立て直し、肌の一部のように着こなす・・・。これが大事なんじゃあないでしょうか。


例によって論旨がグチャグチャになってしまいましたのでそろそろお終いにしますが、最後までお読みいただいた方の忍耐力には感服いたします。(笑)
今回は、ULも原点は「やはり人間、“モノ”より“心”だよね」なんですから、それが“モノ”中心で語られるのは、「やはり本筋じゃないよね・・・」と、40年以上道具に躍らされ続けた道具マニアの私が、自分を棚に上げてお話した一席でした。お粗末!

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2009年4月14日 (火)

“Dynafit-TLT/Comfort”の破損(欠陥?)対策④

便利度 :★★★★★
工作度 :★☆☆☆☆
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「“Dynafit-TLT/Comfort”の破損(欠陥?)対策③」からの続きです。

前回までの記事で“TLT/Comfort”の一部のベースプレートに、通常の使用で突然破損する恐れのある製品が存在する事はご理解いただけたと思います。(画像↓)

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最終回の今回は、この問題が発生した過程と対策についてまとめてみましょう。

●はじめに、この問題の遠因について記しておきます。
その遠因とは、“旧・TLT”の発展型として“TLT/Comfort”がラインナップに加わった時点で、ブーツソールとスキー板のトップシートまでの設計上の間隔が、“旧・TLT”よりも数ミリ大きくなった、つまりいわゆる「下駄を履かせた」状態になったことにあるようです。(この間“Tri-step”というモデルも短期間存在しましたが、構造な欠陥があり即廃番になりましたので敢えて取り上げません)

この設計変更の理由は、カービングスキーの操作性向上のためと言う一面もあるのでしょうが、主としては、”TLT/Comfort”が“旧・TLT”では無理やり取り付けていた感もあるスキーブレーキを、無加工で取り付けられるように設計を見直したからだと思われます。

そのため、“旧・TLT”のベースプレートが現行の“Speed”や“Race”と同じ型の、スキーのトップシートと密着する薄手のソリッドプラスチック製であったのに対し、“TLT/Comfort”になった時点でリフトアップされたヒールピースに対応して、トーピースも数ミリ分高くする必要が生じ、その結果(厚くなったベースプレートをソリッドで作ると重くなりますから・・・)スキーのトップシートとの間に空洞のあるベースプレートにせざるを得なくなったということです。(Vertical-FT はトップカバーの下にシンプルなソリッドのベースプレートを使用していますが、カバーの無いVertical-ST やComfort-TLT にも、見栄えは悪くてもFTと同じベースプレートを使いたいと思っているのは私だけでしょうか・・・?)

そして、今回問題となった破損の恐れの有るベースプレートについては、その空洞部分の補強が何故か十分でなく、素材の強度に応じた構造になっていなかったわけです。



●さて、今回は問題のある“TLT/Comfort”から破損の危険性を取り除く具体的な方法の一例をご紹介します。


【最終確認】

ご使用中の“TLT/Comfort”が不幸にして破損の可能性が高いロットのものと判断された場合ですが、まずは片方のト-ピースを外して見ましょう。

PZ3のドライバーを使って慎重に一気にビスを緩めます。ビスをエポキシ接着剤で固めている場合はハンダ鏝でビスの頭を熱すると緩め易くなります。

前端のビスにワッシャーがはまっていたら(画像↓)確実に該当品ですから、両方ともトーピースを取り外しましょう。

Wa2_2

③でワッシャーの無かった場合は外したベースプレートの裏を確認しましょう。補強が縦のリブのみでしたら該当品です、両方ともトーピースを取り外しましょう。

Bp_ura4_2
(この状態だったら対象品です)

縦横十字のリブで補強が入っていたら問題は無いので、再びビンディングを取り付けなおしセンター合わせをして完了です。

補強が縦のリブのみでしたら・・・、残念ながら該当品です。以下の方法で補強をすると安心です。


【補強方法の一例】

ベースプレートの裏側にラップを被せ、エポキシパテを十分混合し適当な大きさと形状にしてロックレバーに押される裏側の部分にやや盛り上がり気味に押し付けて配置する。(ラップを使うのは、後で取り外して整形できるようにパテとベースプレートの間に離型のためのクリアランスを確保するためです。固まる前のパテの硬化剤などがベースプレートの素材に影響しないかは未知数ですが、見栄えと僅かな重さを気にしなければ 直接パテを盛っても良いかもしれません。)

Pute  Ponb
(エポキシパテ㊧を混合しベースプレートの裏に配置する㊨)

Gf
(↑私は補強のためグラスファイバーの短繊維をパテに練込みきましたが普通はその必要も無いでしょう)


パテを置いたベースプレートをラップを敷いた平滑で丈夫な金属板や厚目のガラス板などに当て、Cクランプ等でプレスしておく。(ベースプレートは少し反っているのでこうしておかないとスキーに取り付けたときの状態にならない)

Cl  Clup
(ビス穴の部分にカイモノを当ててCクランプでプレスしておく)

パテの硬化を待って取り外すとプレート裏側の凹凸形状ぴったりの補強ブロックができる。

できたら最小限の大きさにカッターやヤスリなどで形良く成型しまでしょう。(画像↓)
このままだと5グラム程度ですが、もう少し小さく削れば3グラム位までの軽量化は可能だと思います。

Imgp3389

このブロックをベースプレートの裏に戻しますが、その時に両者の凹凸のディテールを埋めるためシリコン系接着剤を裏の溝の部分に少しだけ塗っておくのも良いでしょう。


スキーにトーピースを再取り付けすれば完成ですが、その際には以前の当ブログの記事を参照してセンタリングを確実に行ってください。
なお、ワッシャーを取り外したのとベースプレートが撓まなくなった分、ロックレバーを起こす動作は固くなります。




【破損した場合の応急対策について】

不幸にして登行中に突然ベースプレートが破損して取れてしまったら・・・。
考えられる対策は2つでしょう。

外れてしまったプレートを探してガムテープ作戦で取り敢えず板に固定し、ロックレバーを起こし押さえて固定する。

プレートが飛んで行って見つからなければ、ザックの中を探して同じような厚さのものを見つけるか、木の枝を同じ厚さに輪切りにするなどして、ガムテープで固定しロックレバーが下がらないようにする。

いずれにしろ以上のような方法で山頂までたどり着けば、滑降時にはロックレバーは(特別な場合を除き)プレートの破損とは関係ありませんので降りはそれなりに楽しめるはずです。


さあ、これで安心して山スキーツアーに行けるようになりました。めでたしめでたし!!


●さて、「自分のは“TLT/Comfort”でなく“Vertical”だから安心だ!」と思った方には申し訳ないのですが・・・、実は06-07と07-08の“Vertical”にもヒールピースの樹脂部分に問題があるのです。(08-09からVerticalのクライミングサポート支持部にC断面スプリングピンが追加されたのにお気づきの方も多いと思います)

欠点ばかり論ってもなんですが・・・、ご希望があればこの点についても、問題点の指摘と対策を公開しようと思っています。

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2009年4月 6日 (月)

“Dynafit-TLT/Comfort”の破損(欠陥?)対策③

便利度 :★★★★★
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危険度 :☆☆☆☆☆

「“Dynafit-TLT/Comfort”の破損(欠陥?)対策②」からの続きです。

一連の記事で、“Dynafit-TLT/Comfort”ベースプレートに問題があり、破損の危険性のあるものが存在し、その臨時対策としてトーピース本体とベースプレートの間にワッシャーを追加するという手段を採ったものがあることは先に述べたとおりです。
しかし、前回の記事についても、私の一ユーザーとしての限定的な認識と推量の範囲で述べたものであり、すべての年式の状態やマイナーチェンジの時期などを詳細に把握している訳ではありません。

“Dynafit-TLT”ユーザーの方で追加・訂正すべき情報をお持ちの方がいましたら是非コメントいただきたいと思います。

●さて、今回はまず問題のあるベースプレートにワッシャーを追加した対策の有無を外見で判断する方法をご紹介します。

比較するために、私の所有する“Dynafit-TLT/Comfort”の3パターン「①最終型のVerticalと同じベースプレートのもの」「②欠陥ベースプレートのもの」「③欠陥ベースプレートにワッシャーで臨時対応したもの」を比較のために1枚の板にビスで取り付けてみました。(画像↓)

3item

まずは、②の未対策欠陥ベースプレートの画像です。(画像↓)

Pu_nw

次に、③の欠陥ベースプレートにワッシャーで臨時対応したものです。(画像↓)

Up_ww

お判りでしょうか?では、両者を横からの画像で見てみましょう。(画像↓)

Up_nw2  Up_ww2

上の左側の画像は「②の欠陥ベースプレートのみのもの」、右側は「③の欠陥ベースプレートにワッシャーで臨時対応したもの」です
(しかし、この対応ではトーピース金属シャーシー部分の先端が上側に反ってしまうことになるので、やはり正しい対応とは言い難い)


②のものを見るとトーピースの金属シャーシー部前端とベースプレートの面が同じ高さで一致しています。
一方、③のものはベースプレートの面からワッシャーの分だけ金属部分が浮き上がっているのが画像でも判ると思います。
このように、お使いの“TLT/Comfort”をご覧になって金属と樹脂製のベースプレートの面が揃っていなかったら、ワッシャーで対応したものだと判断して構わないでしょう。

また、ここで使用するワッシャーは一般の規格より穴の直径に対し外径が小さいもの(画像↓)を使用しないとベースプレートの凹部の幅に収まらないので、当時の代理店ないし指示を受けた販売店サイドで適当なものの手持ちが無い場合、外径の大きいワッシャーの両側をカットして場当たり対応をしたケースもあるため個体差もありますが、樹脂の面から金属部が概ね1mm程浮いて段差があったらワッシャーがあると考えられます。

Wa3

●ではこの僅か1ミリが実用上でどのような影響を及ぼすのでしょうか?
ブーツ無しで①②③のビンディングのトーピースを閉じた状態が次の画像です。

Nv  Nnw2  Nww3

画像が不鮮明ですみませんが、いずれもほぼ同じ力でレバーを起こした状態です。
㊧の「①最新のもの」と、㊥の「②未対策品」はレバーのギザギザとベースプレートの凸部が「カチカチッ」と接触しながら引き代を残しでレバーが止まりますが、㊨の「③ワッシャーを追加して対策したもの」はレバーがベースプレートに接触することなく最後まで起こし切ることができ、その状態でもベースプレートの突起とレバー下部の間には間隔が残ります。

下の画像はワッシャーを追加した対策品ですが、ベースプレートの凸部とレバー下部の間に間隔があるのが判るでしょうか?右側の写真のようにレバーを起こし切っても二つ折りの葉書が十分挟まるくらいの間隙があります。

Nww2  Nww4


●また、下の画像は上述の①②③のパターンの製品にブーツをセットした状態です。(ブーツ無しの状態よりレバーが若干押し下げられた状態で固定されます)

Bv  Bnw  Bww

画像の㊧㊥㊨が、それぞれ①②③のパターンに対応しています。
ブーツをセットしてレバーを起こしてみましたが、㊧の正常品を基準にすると、㊥の未対策品は正常品と同程度の力で最初のギザギザに乗りました。(それ以上起こすと破損につながるのでこの実験ではあまり強い力をかけませんでした)
それに対し㊨のワッシャーで対策したものでは、正常品より弱い力で同程度までレバーを起こすことができ、その後もより少ない抵抗で最後までレバーを起こし切れました。

つまり、未対策品では、この状態から更に強い力でレバーを起こそうとすると、カム様の作用でレバーが補強の無いベースプレート上面を押し下げ撓めてしまうわけです。
しかも全体が均等に撓めばよいのに、縦の補強リブ下部がスキーの表面で固定されているため、ここを支点としてレバーで押される部分との境(画像↓㊧のドライバーで指した凹角部分)に鋭角に折れ曲げようとする応力が加わってしまうのです。

Bp_ura4  Bp_ura3
(㊧レバーに押される部分の裏に補強が無い、㊨は正常品)

そして、この状態の繰り返しと、歩行モードでブーツから伝わるレバーを下に押そうとする強い力が、形状と素材に問題のあるベースプレートの応力集中部分に素材疲労を進行させるのでしょう。
(特にDynafit全般で、05年製造あたりから外見的にも樹脂部品の品質が低下しているような感じで、以前の“Tour Lite-TECH”や“初代 Comfort”と比較すると素人でも品質の差を感じます・・・生産国を変えたか、環境を考慮してリサイクル素材にでもしたのでしょうか?)

“山滑兎”さんの破損状態(画像↓)を見ても、このリブとの接線と取り付けビス部で板に固定されている部分との両境界で、応力の集中する部分から破壊が始まっているのが見て取れます。

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以上から導き出される結論は、問題のあるプレートも外形寸法上は正常な現行品と全く同様でTLTビンディングの基本設計に準じたものであり、そのプレートが1~2シーズンで破損するということは、明らかに所要の強度を得るための内部構造(補強)の不備と、素材の選択ミスだと言う以外にありません

●さて、以上の上記の要領でチェックして、自分のLTT/Comfortが不幸にして問題ありとなった場合ですが・・・。
代理店にクレームをつけるのも一つの方法ですが・・・、弱小代理店(失礼!)に無理を言うのも自作マニアの「“漢”が廃る・・・(オトコガスタル)」と、いうことで、とりあえずユーザーが採れる対処策について考えてみましょう。

(余談ですが・・・、樹脂のプレートぐらい安い物なんだから、メーカーも欠陥品と認めて全品リコールをかけ、パーツ交換に応じれば良いじゃないか・・・とお思いかもしれませんし、本来それが正しい対応なのでしょう・・・、しかし、いろいろ大人の事情?、があって・・・そのためこの程度の欠陥では、実際に破損事故が起こった場合のみ、クレームごとの個別対応にせざるを得ないのでしょうね・・・。“TLT/Tri-step”の時はDYNAFIT本社も全品リコールを公示したようなので、特に不誠実なメーカーというわけではないと思いますが・・・

(以下、次回に続く・・・)

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